古本探し

学生時代、名作とされる漫画が文庫などの形で復刻されることはまだありませんでしたから、一般書店や貸本屋では目にすることのできない「幻の作品」を求めて、大学近くの古本屋街をよくぶらついていました。林静一「赤色エレジー」、萩尾望都「ポーの一族」などもはじめは古本で読んだのでした。
なかでも思い出に残っているのは、小さな古本屋が雑居したビルの4階あたりでみつけた「つげ義春 作品集」でした。それまで十軒以上の店の書棚を丹念に探してきて、「ついに、やっと見つけた!」というその瞬間を今でも覚えています。「ねじ式」はもちろん名作なのですが、「沼」という初期の短編が、学生であった私には最も強い印象を残しました。ひょっとすると今であれば、鄙びた温泉を訪れる旅行記が心に沁みるかもしれません。
半年ほど前からエミール・ゾラの小説を読みはじめ、最高傑作という声があるにも関わらず絶版となっている「ジェルミナル」を求めて久しぶりに古本屋街を巡りました。同じフランスでもプルーストやカミュと比べて「古びて顧みられなくなった作家」という印象を勝手に持ってしまっていたのですが、ふとした気持ちで手に取ってみた「居酒屋」がとにかく面白く、「ナナ」にも夢中になったのでした。そして、文庫本を数多く揃えた古本屋の一つで、岩波文庫上中下三巻の「ジェルミナル」がみつかりました。漢字が旧字体であるためにはじめは非常に読みにくかったのですが、読み進むうちに慣れてくるものです。その緊迫した熱量に圧倒される作品でした。
身近にもまだ古本屋は残っていて、「あそこにはこういった本がある」ということがわかってくると吉祥寺や国分寺で探しものに巡り合うこともあります。ものの探し方はますます多様になってきていますが、私はこのような時間を楽しんでいます。
