溶連菌流行中

10月、リグーリア州の村でのかぼちゃ収穫のお祭り(sagra)

子どもが発熱して小児科で診察を受けるとき必ず喉(のど)の診察を受けるのは「喉が赤いから風邪ですね」ということを確認するためではありません。そもそも風邪(鼻咽頭の一過性の不調で、その多くはウイルス感染症)では喉は赤くならないことが多く、赤くなるとしてもごく僅かです。極論すれば、子どもの喉の診察は溶連菌感染症でないかどうかを確認するためで、この数週間、その溶連菌感染症のお子さんが多く受診されています。

発熱と喉の痛み、腹痛が主な症状で、体に薄赤く細かい発疹を伴うことがあります。診察すると喉の奥(口蓋弓や口蓋垂)から喉の天井(口蓋)にかけて点状の赤みが見られ、頚の腫れ(リンパ節腫脹)を伴うこともあります。喉の奥を綿棒で拭って判定する抗原検査は感度も高く、発熱を起こすくらい菌がたくさん増えているときにはほとんどの例で陽性となります。抗生物質の内服を(標準的には)2週間行なって菌をしっかり根絶することで、急性糸球体腎炎やリウマチ熱といった合併症の出現を予防します。

小児科医を20年以上してきて溶連菌感染症についてはほぼ分かっていると思っていましたが、この数週間多くのお子さんを診療させていただくと、喉を痛がらないお子さんは少なくありませんし、特徴が現れるはずの喉の奥にもその周辺(扁桃腺など)にも全く異常が見られないお子さんもいました。喉の奥の外観は典型的だったのに抗原検査が陰性であったため抗生剤の内服期間を短めにしたところ、中止後に再発してしまった(はじめの検査が偽陰性だった)こともありました。

溶連菌感染症の発熱自体が抗生剤で治療しなければ重篤となりえます(「若草物語」の三女ベスが生死の境を彷徨ったのはこの感染症です)し合併症の出現にも関わりますから、診断はとても大切です。症状や喉の奥の外観だけでなく検査で陽性が確認されていると2週間の抗生物質内服を継続しやすくなりますし、先に述べたように検査をしないとわからない(症状や喉の奥の外観が典型的ではない)こともありますから、「検査結果によって使う治療薬はあるものの十分自然にも治癒する感染症(インフルエンザ)」や「検査結果が子どもの治療には影響を与えない感染症(COVID-19)」と比べても検査の必要性・重要性は高いと私は思います。一方で、先に述べたように検査は万能ではない(偽陰性もある)ですし、どうしても口を開けるのを嫌がる子どももいます。検査が普及せず症状と喉の奥の外観を総合して(臨床的基準に照らして)診断し治療している国も少なくないと思います。症状と喉の奥の外観の両方が典型的であれば検査は省略する(検査なしで診断して治療する)ことがあってもいいと考えるようになりました。

余談ですが「ハナノナ」というアプリをご存知でしょうか?花にスマホをかざすと何の種類の花か判定してくれます。近い将来、喉の奥の状態をAIが画像診断して溶連菌感染症の可能性の高低を判定してくれるようになったとき、それを(少なくとも現時点では)人と人との関係である医療というものに上手く組み込むことができれば、子どもの苦痛を減らすことができるかもしれません。

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