仮想の話
日本には約1,000万人の子ども(0-9歳)がいますが、一定期間にそのうちの250万人が感染・発症してしまう伝染性の高い感染症があったとします。250万人のうちのほとんどが軽症(1-2日の発熱)ですが、ごく稀に重症になることがあり、20人は亡くなってしまう可能性があります(致死率0.0008%)。
この感染症に対して、発症を50%減らし死亡を90%減らすワクチンが開発されたとします。1,000万人の子ども全員が接種すると、発症は125万人、亡くなるのは2人となります。ワクチンを接種したことにより1,000万人のうちの125万人(8人に1人)が1-2日の発熱を免れ、18人(55万人に1人)が死亡を免れることになります。一方で、それまで健康であった人がこのワクチンを接種した後に死亡する(接種後死亡として報告される)ことがあり、その多くは因果関係不明と判定されるものの偶然の死亡よりは多い可能性があり、子どもでは大人と比べると少ないものの、100万人に1人の割合で接種後死亡として報告されることがわかっているとします。1,000万人全員が接種すると10人の死亡が報告されることになります。
「1,000万人あたり10人の接種後死亡が報告されるとしても全例で因果関係があるかはわからないし、18人が死亡を免れる訳だし、死亡しなくとも重い後遺症が残ることもあるのだから、接種しないという選択はありえない」と言えるでしょうか?「8人に1人は恩恵を受けるはいえそもそもほとんどの場合は1-2日の発熱で済む感染症であり、重症化を減らすとはいっても健康な子どもであればそもそも重症化は極めて稀であるためそれを免れるという恩恵を受ける確率(55万分の1)が低すぎる」「健康体に接種するワクチンというもののデメリットは、ゼロが難しいにしても、メリットと比べてケタ違いに少ない必要がある(10人と18人はケタ違いでない)」ことを重視する立場も合理的だと私は考えます。更には「体内においてこれまでのワクチンとは異なる働き方をするワクチンであり長期の安全性は確かめられていない」「ウイルスの側が変異を繰り返したときに効果が持続するかは疑わしい」としたらどうでしょう? 警戒するのも自然ではないかと思います。
発症を何%減らすとか重症化を何%防ぐとかいったことだけではなくこういった説明を丁寧にすること、その上で各人の選択(自由)を尊重することが医療には求められるのではないかと思います。