保険診療の範囲

バルセロナ(Barcelona), スペイン

医療と福祉が更に膨張して、これ以上の社会保険料と税金を徴収されたら、働く現役世代と子どもたちはこの国で生きていけなくなります。保険診療の範囲は大幅に縮小すべきで、そのことをインフルエンザの診療を例に具体的に考えてみたいと思います。

インフルエンザに罹患したら数日間続く高熱を各自薬局で購入した解熱剤でしのぎながら1週間寝て治すのが恐らく世界標準だと思いますが、日本では次ののようなことが当たり前のように行われています。「もともと健康な小学生が夕方から倦怠感があり発熱したため夜間診療所を受診。発熱後まだ数時間だったが“念のため”インフル+コロナの抗原検査が行われ陰性。解熱剤が処方される。翌日に診療所を受診してインフル+コロナの抗原検査が再度行われインフル陽性。タミフルが処方される。翌々日解熱していたが咳が増えたため再診。鎮咳剤と“念のため”気管支拡張のテープ剤が処方される」。このような受診・検査・処方が保険診療で行なわれ、この例だけでも合計して数万円の医療費が発生していると思われます(その数万円でできたはずの別のことができなくなったのです)。お金も医療供給体制も無限にあるならそれもいいかもしれませんが、そうではないのですから、保険診療には優先順位を付けることが必要だと考えています。

最優先されるべきなのは、けいれんが起きたときなどの救急診療や肺炎を合併したときなどの入院診療を行なえる体制が十分に整えられ、それをどの子どもも無料で確実に利用できることだと思います。また、子どもが高熱を来たしたときの対応法についてかかりつけ医からあらかじめ助言を受けておく機会が保障され、発熱が持続するときには肺炎や中耳炎などの合併症が起きていないかどうかかかりつけ医の診察を受けることは、誰にも無償で行なわれるべきです。インフルエンザ脳症のリスクが相対的に高い乳幼児に対しては、予防接種も無料に近い形で行なえるのが理想だと思います。

一方で抗原検査は、キットは市販されている訳ですし、医療機関で行なう場合でも自費とすべきです(「念のため」の検査で子どもが無駄な苦痛を強いられる機会も減るかもしれません)。インフルエンザの診断は流行状況・症状・診察(高熱を来す他の疾患の除外)により行えばいいと思います。タミフルなどの抗ウイルス薬を使うと確かに熱が下がるのはやや早くなりますが、インフルエンザは各自の免疫力で自然治癒する疾患ですから、タミフルは保険診療の対象ではなく自費、しかも予防接種より高額でいいのではないでしょうか。予防接種をした家庭からも徴収される社会保険料で、予防接種をせずに罹患してタミフルの処方を受ける家庭の医療費が賄われるのは公正でないと思います。誤解して欲しくないのですが、これはあくまでインフルエンザが自然治癒する疾患だからで、他の病気やケガについてまで「リスク因子を減らさなかったり予防をしなかったりする人には保険診療を行なうべきでない」と考えている訳ではありません。自然治癒する疾患に「かかりにくくする」ために接種する予防接種が有料であるように、「より早くなおす」ための診断や治療もオプションとして希望する人がそれぞれ有料で行なうべきだろう、ということです。

医療の側も、多くの患者を診療すればするほど、検査をすればするほど、処方をすればするほど評価される(利益となる)という構造を変えなければいけません。少ない受診回数で、少ない検査で、少ない処方で患者さんの健康を保つことのできる医療が評価されるように変わってくれないだろうかと心底思っています。

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