集団健診、マス・スクリーニング

インテリアーノ通り(Via Interiano), ジェノヴァ

学校健診についてニュースになっています。医師がそれを正しいと信じていて医学的にも間違いとまで言えないのであれば何をしてもいいと考える医師がそれなりの数いることに驚きます。

確かに最大の問題は学校健診で下着をめくって陰毛の有無を確認することについて事前に説明と同意がなかったことだと思います。ですが、事前に説明があれば良かったのかというとそうではなく(学校健診でそれをしますと言われて拒否できない人もいるでしょう)、学校健診として妥当と考えられる(=通常行われる)範囲を逸脱していたことも問題なのだと思います。

集団に対して一斉一律に行なわれる健診、マス・スクリーニングはどうあるべきかについて学生時代の小児科の講義で「新生児マス・スクリーニング(先天性甲状腺機能低下症などの先天性疾患を早期に発見して治療するため、ほぼすべての新生児に行なわれる血液検査)」を例に教わったことがあります。その疾患の頻度がそれなりに高いこと、はじめは徴候が乏しいためそのスクリーニングをしないと発見できないこと、医学的に妥当で経済的にも合理的でスクリーニングを受ける人への負担が大きくない方法であること、そのままだと重篤な経過を辿ってしまうが早期に発見して対応することで予後を大きく変える方法(治療)があること、これらを満たすことが集団健診、マス・スクリーニングの条件だというのです。医学部の他の講義では「がんや生活習慣病をとにかくスクリーニングして早期発見・早期治療することは無条件にいいこと」としか教わらなかったなかで、今でもこうして思い出せるくらい印象に残る講義でした。

冒頭の学校健診のニュースを例に取れば、学校健診で陰毛の確認をするまでもなく思春期早発の徴候は乳房腫大の早期発来などで本人家族が気付きますから「そのスクリーニングをしないと発見できない」ということはなく、小学生が他人に下着の中を見られることは「負担が大きくない方法である」とは間違っても言えないだろうと思います。

最後に、「医学的に妥当」であっても侵されてはならない個人の自由と尊厳があることも述べておきます。コロナ対策禍を経験してわかったように、本当に用心していないと、「医学的に妥当だから適応する」という範囲を医療はどんどん増やしていきます。学校健診で下着の中を見るということが通常行われるようになってしまう可能性もあります。善意であるかのように見えても、それが今回紹介させていただいた「集団健診、マス・スクリーニングはどうあるべきかの原則」を逸脱していないか、厳しく監視していく必要があると思います。

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