鼻吸引

ジェノヴァ(Genova)旧市街

子どもが生まれたイタリアの友人の家に遊びに行ったとき、鼻孔に生理食塩水を垂らして洗ったり吸引器で吸引したりを日常的に行なっているのを目にして驚きました。乳幼児が風邪をひいたときに内服するのは高熱のときのアセトアミノフェンと中耳炎や副鼻腔炎を合併したときのアモキシシリン(抗生剤)のみで、去痰剤や鎮咳剤といったものは一切内服せず、鼻洗浄と鼻吸引を自宅で徹底して行ないます。

鼻吸引を行なうことは余りにも当たり前すぎて、欧米からはその有効性の根拠(エビデンス)を示すような学会発表や論文はなかなか出てきません。日本国内の学会では、自宅で鼻吸引を行なった時期と行わなかった時期を比較すると行なった時期には咳や鼻水の続く期間が短縮し急性中耳炎や急性副鼻腔炎で抗生剤を必要とする機会も減少する、という報告がありました。

鼻吸引は歯磨きに似ていると思います。個人差はありますが子どもにとって苦痛にはなりますから、必要性とよくよく天秤にかけ、できるだけ短時間で済ませるよう、またその子どもにあったやり方でできるよう工夫し、終わったら「よく頑張ったね」と抱きしめ、微笑み、しかしやるときは毅然とした態度で行なってほしいと思います。

一方で、受診した乳幼児に対してクリニックで鼻吸引をするということを私は基本的にしていません(例外としては、生後1-2か月の乳児のRSウイルス感染症で連日受診してもらうときや、まだ自宅用の鼻吸引器をお持ちでない乳幼児の保護者の方に有用性や使用法を説明するときがあります)。歯医者に行ったときに歯石を取ってもらうのと同じ感覚で、特別に効果があることをしてもらっているとお考えになる保護者の方がいるかもしれませんが、市販されていている自宅用の鼻吸引器で吸引するのと何ら変わりません。鼻がすっきりする効果はせいぜい1時間で、クリニックでのその1回の鼻吸引をすることで咳や鼻水の続く期間が短縮されたり抗生剤を必要とする機会が減少したりといった効果は常識的に考えて恐らくないと思います。苦痛を伴う処置ですから、次からクリニックに来ることだけで苦痛になったり通常の診察に応じにくくなったりする子どもも出てきます。考え方は様々でしょうが、私はこのようにしています。

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