でこ
「好きな女優は誰ですか?」と訊かれると「(日本人ということでなら)原節子です」と答えてきました。声、表情、仕草、つまり演技から醸し出されるところの内面、そして何より体格が、「しっかりとした」女優が好きなのだと思います。これまでの人生の中で、写真集というものを買ったのは後にも先にも「永遠の原節子」だけです。
ところが最近になって映画を観る機会があり、高峰秀子は素晴らしいのだなと思うようになりました。「日本映画歴代俳優ベスト10」などの企画があると女優部門の第1位によく選ばれる人で、愛称は「でこ」だったそうです。大学生の頃に「二十四の瞳」や「浮雲」などは観ていて、いい演技をする人だなとは思った記憶がありますが、魅了されるというほどではありませんでした。これらの代表作をまた観てみたくなりました。
晩年は映画界を退き、数多くのエッセーを残されたようです。その幾つかを読みました。賢い人とはこういう人のことを言うのだと私は思います。
「私の観察によれば「何でもどうでもいい」人は仕事のほうもどうでもいいらしく、すべてのことに情熱が薄いらしい。私は「食通」なんてことばはキライだし、信用もしていないが、もっと誰もが食いしん坊になって、うまい、まずい、をハッキリというようになってくれたら、そこらに打っているチクワ一本、干物一枚でも、いまよりはおいしくなってゆくのではないかと思う。うまい食べものを作るのはコックでも板前でもなく、それを食べる私たちの舌である」(「整理整頓芸のうち」より)
医療についても同じです。「風邪」を引いたときの受診であったり乳児健診であったり、小児科開業医に相談することの多くは確かにそれは「大問題」ではないかもしれませんが、「何でもどうでもいい」ではなく「いい診療を受けたい、いい相談の時間にしたい」という気持ちをもった親御さんに選んでいただける診療に少しでも近付けたいと思います。