ほらね、怖くない
表題は「風の谷のナウシカ」の中のセリフです。剣士ユパが拾ってきた野生のキツネリス(後にナウシカが“テト”と命名)と初めて対面したとき、主人公ナウシカが「ほら、怖くない、怖くない」と言いながらゆっくり指を近づけます。テトは尻尾を逆立て唸り声を上げ、ナウシカの指に嚙みつくのですが、ナウシカは「ウッ」と一瞬顔をしかめるものの穏やかに「ほらね、怖くない」と声をかけるのです。するとテトは逆立てていた尻尾を緩やかに下し、傷付いたナウシカの指を舐め(ナウシカ「怯えていただけなんだよね」)、仕舞にはナウシカの肩に駆け上っていくのです。
この場合の「怖くない」は「怖がらなくていいよ」「私はあなたにとって敵ではないのだから」ということですが、「敵同士ではないのだから、私もあなたを怖がらない、怖くない」という意味も重ねているように思います。テトは、自分が嚙みついたことで痛みを感じているであろうにそれでも反撃してこないナウシカに対して「この人は敵ではないのだ」ということを理解したのでしょう。
子どもが泣き叫んだり暴れたりしているとき、それは何かしら「自分の思うようにならないこと」に満ちた社会や世界に対して怯え怖がっている状態と言える訳ですから、大人は「怖がらなくていいよ」「私(そして社会や世界)はあなたにとって敵ではないのだから」という気持でゆっくりと近づき、例え子どもから強い言葉を投げつけられたり蹴られたりしても穏やかに対応し、「ほらね、怖くない」ということを伝えなければなりません。泣き叫んだり暴れたりしない段階で子どもの要求を捉えること(スマホを見ている暇はありません)、そしてそれを叶えること(叶えられない要求が出やすくなる状況はあらかじめ避けるよう工夫すること)も必要です。
とにかく初めが重要です。怖がらせるようなことを重ねれば重ねるほど、後からの挽回は大変になります。テトとナウシカも初めての対面だったからこそあそこまで上手くいった可能性があり、見方を変えれば、ナウシカはそのことをよくわかっていたからこそあそこで痛みをこらえ、手を引かなかったのだと思います。