映画館にて
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映画館で小津安二郎監督の「晩春」「麦秋」「東京物語」を通しで観てきました。私の学生時代、その当時は都内に何か所もあった名画座で二本立てをよく観ましたし、「七人の侍」や「1900年」などの長編もありましたが、6時間続けて座席にいたことは決して多くないと思います。あっという間で、何とも幸せな時間でした。
家でも映画を観ますが、やはり映画館はいいなと思います。スクリーンや音響が迫力があるからという訳ではありません。自分の都合で「一時停止」や「再生」をすることなく映画の流れにこちらの身を委ねたうえで、見ず知らずの人達と笑ったり泣いたりしながらその時間を共有する経験が好きなのです。今日も暗闇の中で幾度となく涙を流し、上映終了後、照明が明るくなる前にそっと拭ってきました。
この3本は学生時代にそれぞれ1回ずつ観ていて、特に素晴らしいと感じた「東京物語」だけはそれ以降も更に3-4回観ていました。イタリア留学中にテレビで放送され、この作品を生んだのは僕の国なんだよという少し誇らしい気持ちでイタリア人の友達と一緒に観たこともありました。しかし今回特に印象に残ったのは「晩春」です。父(笠智衆)が自分は再婚すると娘(原節子)に嘘をつく場面、原節子が見せたあのような表情を映画の中でかつて私は目にしたことがないのではないかと思います。
100年も経たない少しだけ昔に、日本人はどのように考えどのように行動していたのか。どのように生まれ、育ち、働き、産み、育て、そして死んでいったのか。医療が多くのことをできない時代に、死ぬことはどのようであったのか、別の言い方をすれば、医療が余計なことをしない時代に、死ぬことはもっと自然で尊厳あることだったのではないか。そういったことを考えてしまいましたが、映画は映画として楽しむべきで、映画から何かしらのテーマや教訓を読み取ろうとするべきではないのだと思います。このような感想を私が今日抱いたとしたら、今日観た映画がそのようなことをテーマや教訓として表現しようとしていたのではなく、私がもともと心の中でそのように思っていたのかもしれません。