ワクチン忌避

子どもに一斉すべてのワクチンを接種させない親御さん、ごく一部のワクチンしか接種させない親御さんがいらっしゃいます。全体としては僅かですが、国内でも海外でもそのような親御さんは少し増えているようで、クリニックの診療においても自治体の乳幼児健診においても、そのようなご家族にお会いすることがしばしばあります。
小児科医はその養成課程において「ワクチン忌避は無知や思い込みや育児放棄などから生じてくるもので、“子どもに必要な医療を受けさせない”という大いに問題のある行動であるから、改めるよう指導しなければならない」と教わります。ですが最近、「本当にそうなのだろうか?」と思うようになりました。イタリア人の親友の一人がそうで、幼少時から身体のいろいろな不調に悩まされてくるなかでそのように考えるようになったようで、ヴェネツィアの路地を歩きながらそういった話をしたのですが、彼女は際立って聡明な人だと私は考えています。ここ最近お会いした親御さんたちも、私と異なる立場であるとはいえ、自ら考えて真剣に子育てをなさっている方達のように感じました。
私は「効果と安全性が十分に検証されたワクチンの接種を社会が推奨すること」はあって然るべきだと思っています。その感染症に罹患した場合に重篤となる可能性が高い(そしてもちろん接種の効果と安全性は高い)ワクチンについては、ワクチンを忌避する人からも含めて社会が徴収した税金をもって公的な接種をすることはあっていいと考えますし、社会の存続にとっての深刻な脅威から社会を防衛するためにほぼすべての人が接種することがどうしても不可避なワクチンについては、接種しない人が幾らかの社会的不利益を被ることも仕方がないのかもしれないとも思います。また、ワクチンを忌避したことにより病気になる可能性が出てくるのはその判断をした親御さんではなく子どもなのだから、社会の集合知が認めた「正しい選択」をしない親御さんに対して社会は強い対応をすべきなのではないかという議論もありえると思います。
ですが「私たち(医療)は間違えることがある」「まだわからないことは沢山ある」「各人の自由な選択はギリギリまで尊重される」ということを絶えず思い出して、謙虚な姿勢で相手の話に耳を傾ける必要があるのではないかと思います。罹患しても重篤となる可能性が高くはなく、社会の存続にとっての深刻な脅威ともいえない感染症に対して、効果も安全性も十分に検証されたとはいえないワクチンを、「私たち(医療)はいつも必ず正しい」「すべてわかっている」「自由な選択の余地はない」という上から目線で、推奨という名を借りて実質的には強制したものだから、ワクチンの一斉を忌避する人を増やしてしまったのではないかと私は考えています。
アメリカ大統領選挙をみても、知的エリートが「正しさ」を振りかざすことについての反発は強まっています。当たり前のことです。自分たちが推奨したにも関わらず大半の親御さんたちが子どもに接種させなかったワクチンがあることについて、日本の小児科医も真剣に考えなければいけないのではないかと思います。