発達診療を学んだ本

私は発達診療に関して年単位のまとまった研修というものをしたことがありません。本を読んだり学会に参加したりしながら自分で勉強してきましたが、3人の先生がお書きになっている本から特に大きな影響を受けました。いずれもとてもメジャーな先生です。
横山浩之先生:小児科(小児神経科)医であるという背景が同じであり、特に発達診療を始めた頃に多くのことを学びました。私は特に開業してから児童精神科寄りの発達診療を意識するようになったので、今では小児科(小児神経科)の発達診療とは立場を異にするところも正直言ってあります。ですが、何かの折に「社会的資源は有限であり、支援を誰にどれだけ配分するかはきちんと議論するべきだ」ということをはっきりと述べられるのを耳にして、「結果の平等」(多くの支援を必要とする子どもには例えそれが際限ないくらいになっても必要なだけの支援をするのが当然だという考え方)に異を唱えようものなら村八分にされかねない小児科(小児神経科)の世界にあって、自らの信念を主張することのできる立派な先生だと改めて思いました。
本田秀夫先生:現在の私の診療に最も大きな影響を与えていると言って間違いありません。大人がすべきことは何より子どもに無理をさせず、二次的な心の問題が起きないように工夫することなのだ、という大原則を学ばせてもらいました。私がこのことを本当に理解し、自分の発達診療の大切な理念としていくうえでは「病気を見つけて治す」という小児科医として染み付いた姿勢をいったん壊すというきつい作業が必要でした。「子どもを変えようとするより先に(子どもが大きく変わらなくても生活しやすくなるように)まず大人が対応を変える必要がある(早期療育ではなく早期対応)」「大人が子どもを打たれ強くしようとするとその子どもは必ず打たれ弱くなる(北風と太陽)」など言い回しがとても頭に残りやすく、家族に説明するときに使わせてもらっています。著書だけでなく新聞の連載や動画などでも子育てについて痛快な発信をなさっていて、「目から鱗」となることを受け合います。
佐々木正美先生:診療だけでなく自分の子育てにおいても、著書「子どもへのまなざし」に書かれてあることを何度思い出したかしれません。「子育てとは子どもからのすべての要求に応じ続けることであり、0-1歳は一番大変だけれど、そこでできる限りのことをしていれば、必ず後から楽になってくる」という言葉を信じ、無我夢中で育児最優先の生活をしました。「一向に楽になってこないけれど、本当にこのままでいいのだろうか?」と挫けそうになったこともありましたが、今では「あの言葉は間違いなく真実だった」と思っています。子どもからの「すべて」の要求に応じるのですということを強調されていて、先生もご自身の子育てにおいてそのようになさったおつもりだったのが、成人したお子さんに後からその話をしたところ「そんなことはなかったよ(すべてに応じてはくれなかったよ)」と返されたそうで、親が「すべてに応じるつもりでいる」くらいで漸く子どもの心を満たすのにはぎりぎりなのです、と書かれています。子育てとはかくも親の覚悟を要求するものであることに私も同意します。