自尊心が下がるから

ナヴォーナ広場(Piazza Navona), ローマ

子どもの夜尿症や低身長症について「これらがあると子どもの自尊心が下がってしまうので積極的に治療すべきである」という考え方があります。国内外問わず小児科医の間ではそれが主流かもしれないのですが、私はこの考え方を全面的に肯定していいものかためらいます。

そのためらいの内容は以下のようなものです。

子どもの自尊心が下がるかどうかはそのこと(夜尿症や低身長症)に対して養育者をはじめとした大人がどういった反応をするかによっても違うのではないか? 子どもの自尊心を下げる他のたくさんの要因のなかで小児科医は薬による治療法がある要因への介入にだけ熱心でいいのか? 薬が効かない夜尿症や低身長症の子どもの自尊心が下がってしまうのはそのままでいいのか? 医療の対象をどんどん広げて「治療すべきこと」を増やしていくことで子どもは果たして幸福になるのか? 「薬で治せるものは治す」という姿勢は「薬で治せることを探す」、そして「薬で治せないことへ対処する力を失う」ことにつながらないか?

自尊心をはじめとした人間の肯定的な感情の源は、乳児期~幼児期前半の基本的安心感、突き詰めると養育者との安定した関係(「自分はそのままでいい」「あなたはそのままでいい」)にあると思います。この関係を育てていくことは容易なことではありません。小児科医が万能な”処方箋”を持っている訳ではありませんが、養育者と共に考える存在でありたいと思います。そして幼児期後半から学童期にかけて夜尿症や低身長症があったときに「そのままでいい」のかどうかきっと迷われるであろう養育者と共に迷いながら、一人一人の子どもに向き合っていきたいと思います。

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