グイド(Guido)
お父さんがラグビー選手で、グイドも岩のような大男でした。スキンヘッドにチョビ髭、そして大木のような腕にはタトゥーといういで立ちで、見ず知らずで街ですれ違ったらまず目を逸らしたくなるような外見でした。私が何か言うとはじめ睨むような目つきをわざとしてこちらの反応を楽しんでから、ニヤッといたずらっ子のように笑います。イタリア南部アブルッツォ州出身でジェノヴァに住む私の友人が大学時代に知り合った若者で、当時も今もずっとアブルッツォ州に住んでいます。
当地を旅行中に彼の友達など30人くらいの若者とレストランで食事をしていたときのこと。静かに黙々と食べていたところ、近くの席にいたグイドが全員に向かって大声で言いました。「YujiはすごいBuona forchetta(=良いフォーク=たくさん食べる人のこと)だぜ」。イタリアではたくさん食べることは「絶対的な善」です。その後は、日本でもパスタを食べるのか?とか、女性もたくさん食べるのか?とか皆から質問攻めにあいました。
翌年、山間の小さな村にある彼の別荘、亡くなった祖父母の家だったのですが、そこでバーベキュー・パーティーがありました。羊肉の串焼きをさんざん食べ、ワインも相当に入ったところで、4-5人の若者と「なぜ日本は捕鯨をやめないのか」について議論になりました。何せ多勢に無勢で私はほとほと参ってしまって悲しい気持ちになっていたそのときグイドがそっと声をかけてきて、別荘の中を案内してくれました。ある部屋では、その地域は羊を飼うくらいしか産業の無い貧しい地域だったこと、そのとても簡素な部屋は自分の祖母が生れた部屋であること、などを話してくれました。捕鯨の議論のことは一言も口にしませんでした。
もう10年以上会っていません。子どもさんが生まれたと聞きました。いつかまた「俺たちはBuona forchettaだ」と肩を組める日を。